開催前 – 準備・制作
神戸の公募展が終わって2週間ほどたった頃、6月の公募展に出展を決めていたGallery IYNさんから、秋の「舞POP JAPAN展」のコの字ブース貸し切りの出展を持ちかけられた。
神戸での手応えの無さ過ぎに6月の公募展すら不安な気持ちであったが以前に下見をしたときに見かけた写真家さんの舞妓の写真の個展と併催に是非にとのお誘いで、6月の公募展はサイズに制限があるが、枚数もサイズも自由、造形物でもなんでも、ブースを埋めてくれればよいと言う。
そのとき、6月に出展する3枚は大阪・南地 たに川の芸妓姉妹の上の3人を描く予定で、下の2人の妹芸妓を描いてやれないことにちょっともやもやしていたから、埋め合わせというか回収できる機会が要ると思っていたので、6月のシリーズへの2枚追加と新たに5人姉妹全員を描き下ろして、これまで贈ってきた千社札のデータも残してあるのでこれも展示しようとその場でアイデアがふつふつと湧いてきたので、出展を承諾した。
6月同様に9月についてもたに川さんと芸妓たちに芸妓それぞれをモデルにした絵を描いて、その名前を書き添えることの快諾をいただいた。
僕の絵はそもそも似顔絵だったから、ブースを埋めるだけの枚数の絵は描きたい似顔絵でいきおい埋めてしまいたい、そういう気持ちだった。
デジタル出力する千社札集も含めて20枚の制作を目標にした。最悪描ききれない事態のときも3年毎月描きためた絵があったのでそれで埋め合わせすることもできる。気持ち的に余裕もあった。
2月と6月の公募展準備で紙に合わせた額装は手間もお金もかかるので、新たに描く絵は額の種類の多いA4サイズに決めた。IKEAで見つけた既製額も1枚200円以下で求めることができてクオリティも展示には申し分なかった。
半年以上の制作期間があり、途中にGWも盆休みもあったが、あとで描きなおしや枚数調整も必要だろうと思ったので描こうという前向きな気持ちがあるうちに一気に描いてしまおうと、作画に取り組むことにした。
というのも、南地の芸妓姉妹を描くことには、それは描く僕の自己都合でもあるが、制約があった。ソラから想像で描くこともできるが、今回は実際のありのままの姿を確認したうえで絵にしたいというものだった。
この時点で芸妓の1人が休養中でまだ復帰の見通しが無かったので、ご本人の承諾は得れてなかったが、引退をしたわけでもなく、姉妹のひとりの絵が欠けるのも不自然なので、構わず描きすすめる。ただ素材とする直近の彼女のイメージがない状態だ。
芸妓5姉妹の、下の2人の妹は上の子が2月に芸妓に成りたてで、まだ夏以降の衣装を着ていないので、上3人を夏衣装で描いてしまっているので夏まで下描きのままにし、
芸妓姉妹の一番下の妹はまだ「芸妓見習い」なので、秋の芸妓デビュー前の、芸妓衣装を纏う練習時期までは下描きもせず待つことにした。彼女のデビューが展示の頃に近いので、芸妓姿の絵でよろこんでもらえるのではないかと思ったし、単純に見に来る一般のお客様にとって芸妓姉妹の絵の展示に芸妓ではない姿の絵は不自然だと思ったからだ。
6月の公募展が開催される頃、思っているより順調なくらいで作品を描きためていた。
ところが想定外の事態がつづく。
6月の公募展の作品の搬入の頃、すでに描き上がっていた、休養中の子とは違う上の芸妓が急に退くことになり、9月にはその子をモデルにした絵の数枚は出せなくなる。
それらに代わる、あらたに(実働)3人になった姉妹をテーマにしたシリーズを描き始めたら、休養をしていた芸妓がまた急に復帰して、その彼女の絵も直近のイメージで描きなおしたくなってしまう。
もともと共通のシリーズで5人の絵を描きわけるテイで制作をしていたので、夏まで下描きにしていた絵を仕上げはじめると、半年近く前にすでに描き終わっている同じシリーズの絵とタッチや雰囲気に差が出てしまい、全部描きなおしたくもなるし、どう折り合いをつけるか悩む。
最後に見習いだった妹の芸妓衣装を纏う練習が、ご本人の体調不良などで開始が遅れてしまい、結局制作期限内に実際の芸妓姿を見ることができなくなり、僕としてはあくまで実際のご本人の姿を見た上でご本人のイメージから遠くないものを描く自己ルールを強いていたので、現在の見習いの姿を描くか、想像で彼女の芸妓姿を描くしかなくなったのは至極残念だった。致しかたない。
自分は1枚を描きあげるのにそれほど時間はかからないのであるが、それでも結構翻弄されてしまった。
ただいくつかイチから描きなおしや発案させられたことで偶然に良い絵が描けたという感触を得たものもあった。
作品搬入の直前に作品を撮ったデータなど展示内容の確認作業があったが、そのときにはじめて今回の僕の展示が「個展」の扱いになることがわかった。IYNさま側の説明不足なのか、説明を僕がよく聞いていなかったのかは定かではないが、ともかく自分の展示に名称をつけることと、キャッチになるイメージ画像を作ることになった。
この展示で描かれた芸妓たちも注目されることを願っていたのと、展示そのものを見てほしいという気持ちから、けっこうすんなり「うちらにあいにきて」というワードが浮かんできた。
IYNさんが僕が芸妓たちへの思い入れで描いてることを理解してくださっていたので、芸妓の所属する、お茶屋「たに川」さんと出向先になっているお茶屋バーの「箏の音」さんの宣伝をするこも、11月の芸妓たちが参加するの「難波をどり会(なんばおどりえ)」の案内も置くことも快諾してくださった。絵画展であまり前例のないことをお願いしたように思う。
会場設営については、設営イメージ図を提出してIYNさんにお任せであった。
作品について
舞踊シーンのシリーズ
催しなどで直に見た4人それぞれを描いている。衣装については基本そのときのものを忠実に描いている(つもりだ)が、ご本人が別の機会に召されていたものに置き換えている絵もある。顔は似顔絵に寄せている。
Popping!シリーズ
TWICEや韓国POPSアイドルのCDジャケットやグッズに施されるようなイメージを意識した各人の似顔絵。いままで、祇園町や各地の芸妓舞妓に贈ってきた、僕の描く代表的なパターン。
今回はご本人からうかがった趣味や好きなもの、個人のエピソードをモチーフにして飾っている。モチーフの題材はかなり踏み込んだ情報で描いたつもりなので本人や近しい人には楽しく見てもらえるはず。
名所シリーズ (B5額)
6月の公募展で展示したものに妹たちのものを追加。
6月の作品は大阪をテーマにした音楽のフレーズを作品名にしたが、今回は妹たちが個々に縁のあった場所を選んで描いている。まり鶴さんが住吉大社、千鶴さんが大阪城梅林。
まり鶴さんの住吉大社の絵は、夏まで下描きで置いていたものを仕上げにかかっていたが、その時点で僕の絵のタッチや表現の傾向がかなりかわっていたので納得できなくなって、急に降ってきたイメージで一気に新たに描いたもの。急に降ってきたので紙サイズを他の姉妹と間違えてしまったが、個人的には今回の一番の出来。(額装するときは他の姉妹と同じサイズの紙を裏に敷いている)
なにわ純血三姉妹
一人が退いて、一人が復帰未定の休養中で、残った芸妓三姉妹を激励するつもりで手掛けた2枚。
千社札総覧
実際に贈ったものそのものではなく、似顔絵は描きなれて安定した時期のものに差し替えていたり、贈られたご本人なら気づくであろう、意図的にちょっと違うデザインにしているものもあり。
四季の舞妓シリーズ
京都・祇園町の舞妓の春夏秋冬のイメージ。
月々描きためてきている、構図もソラで想像で描いているパターンの絵。
作品はこちらからご覧になれます
Gallery “うちらにあいにきて”
開催以降思ったこと
自分にような趣味で好き勝手描いてる絵の展示を入口すぐに、今回の全体展示の代表イメージを描いているかたの作品ブースト向かい合わせにしていただいく待遇には恐縮するしかない。
前回も来てくれた旧友や、昔の職場の懐かしい先輩方、
いつも芸妓たちといっしょの時間を愉しんでいる「箏の音」常連の方々の来訪、
同じく展示に参加されていた作家さんから、着物を正確に描いていることを褒めていただいたことは大変うれしかった。
その反面、6月に絵を見に来てくださった方々、来てほしかった人たちが来てくれなかったことは重く受け止める。もっと絵に精進が必要なことを痛感させてくれた。
和をテーマとした作品の多い展示で、他のかたの作品の着物や和装の描き方が気になってしまって、SNSでそのことをつぶやいたら、誹謗中傷にしか読めないようなアグレッシブなコメントを同じく参加している作家の方から書き込まれるなど、描く人たちの界隈との関わりの難しさも感じた。
描くことを生業として生きてきていないので、そういう自分が小さいなりに個展のようなものをしたことは、人生においてそれなりにサイズ感のある出来事であったように思う。
それゆえに、今回のことは自分のモノの考え方や価値観にもそれなりの影響がある。
次の絵の発表の機会を期待して応援してくださる声もあるし、今後は制作環境を整えて、作風や手法を変えたり違う表現で描いてみたい気持ちもあるけれど、自分のなかの深いところをちょっと整理してからどうするか考えたい。
『うちらにあいにきて』at 舞POP JAPAN展
2023年9月29日(金)~10月9日(月・祝)
Gallery IYN
https://www.gallery-iyn.com/post/shinchaya-collection