ジョゼと虎と魚たち、2021年

今朝見たアニメ映画に触発されて、家に返って上映当時気になりながらも見逃した2003年の実写映画も見て、寝る前に原作も読み切ってしまった。

2003年の映画は人の持っている偽善や背徳感を生々しく晒す話でその後に明るい希望を思い描かせることなく終わる。撮影当時では池脇千鶴さんもジョゼに適役だったと思う。

登場人物たちはみんな大阪弁を話すし大阪を舞台想定しているのだろうが、そのスレた世界観を現すには2003年の大阪は洗練し過ぎていて多くの他の場所でロケされていてそのあたりには、大阪人の目線では凄く違和感がある。

原作はじつはごく短い短編で映画の下地になった生々しさはあるが、ジョゼは乳母車ではなく車椅子に座っているし話の滑り出しはアニメのほうに近い。
生々しいというか、問題に向き合うのってそういうもんとちゃうの、人って、というあっさりした読後感がある。
とくにこの先に希望を見出さないまま終わること自体は実写映画と同じだ。
映画みたいに恒夫が泣き崩れることはないが。

作者の田辺聖子さんは戦前戦後を生きた、ちょうど”おちょやん”の浪花千栄子さんとは別に、作品もご本人も大阪を代表する女性で、作品が人気された時期はインターネットも無いし、先生の作品が大阪以外のところで大阪の人となりを描いて伝えていた媒体でもあったと思う。
ただ女性に人気のあった田辺作品の本当の魅力は僕は女性ではないので、じつはわかってないかもしれない。
原作が描く時期はジョゼが阪神で村山がマウンドに上がっているのを幼少に見た体験を語っているので逆算して昭和50年代頃か。

実写映画も原作も即日手を出してしまったくらい今回のアニメ作品は正直良かった。
ジョゼにも恒夫にも未来の希望をもたせて清涼感で終わるというかなりの改変があり、いかにも今風なアニメになっていて、田辺先生が見られたらどうお思いになるか…ではあるが、現在の大阪の風景で登場人物といまの世代に同じ轍を踏ませるならこうなるかな、という感じ。

ロケ地の情景を忠実に描いて見せるのは「けいおん」より後のアニメのお約束になったが、個人的には8割9割、立ち寄ったことのある場所の光景だが、それを気にしてジョゼの家はどのあたりか考えるとわけがわからなくなるのでやめたほうがいい。
家の前が玉串川で愛染坂が近くにあって最寄駅が天下茶屋駅で車椅子で箕面市図書館に行けるとか、そんなとこあれへんから。

それでも、大阪と周辺の現在の光景に落とし込んで描いた”無理のなさ”がしっくりくるし、純粋に大阪を描くアニメとして、ちょっと流行ればいいなと思う。